2024.06.06
エンバーミングのあれこれをご紹介。これを読めばエンバーミングの知識が身につきます!
「エンバーミング」は、日本では馴染みがないかもしれませんが、主に土葬が一般的な国では遺体保存の技術として使用されています。エンバーミングは、遺体を生前の姿に近い状態で保持することや衛生的な面から注目されており、最近では日本でも注目を集めています。火葬が一般的な日本ではあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、エンバーミングによって生前の姿に近い形でお別れをすることができます。 そこで、今回はエンバーミングの目的や手順をはじめとした多くの事柄について紹介していきます。 エンバーミングについて知りたい方、エンバーミング処置をご検討されている方はぜひ最後までご覧ください。
エンバーミングとは
エンバーミングは、遺体を長期間(およそ10日~2週間)保存するための技術であり、日本語では、「死体防腐処理」や「遺体衛生保全」と呼ばれています。この技術では、遺体を消毒・殺菌し、科学的な防腐処置を施すだけでなく、必要に応じて修復も行われます。エンバーミングは、エンバーマーと呼ばれる資格を持った専門家によって行われます。エンバーマーとは、IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の「エンバーマー資格試験」に合格した人々のことであり、その試験に合格した人だけがエンバーミングを行うことができます。 日本では、生前の変わらぬお姿で葬儀を挙げたいという事で、近年、注目されている処置方法です。
IFSAとは
IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)は、1994年に創設され、感染防止やエンバーミングの適切な実施と普及を目指す団体です。ご遺体からの感染を予防するだけでなく、ご遺体の尊厳を守り、ご家族の一員を亡くされた方々の悲しみを十分に考慮しています。また、適切かつ安全な環境を提供し、遺族が自由にお別れをすることができるような状況を実現するために研究し、活動しています。 「エンバーミング資格」という資格もIFSAが作りました。この資格は、国家資格ではありませんが、エンバーマーとして仕事をする際に求められる知識や技術を持っていることの証となります。 「おくりびとのお葬式」にも「エンバーミング資格」を有する者が多数在籍しておりますので、安心してエンバーミングをお任せください。
IFSAのエンバーミング普及によって、件数はどのくらい変化したのか?
※以下、施行件数の数値
1995年 | 2010年 | 2021年 |
---|---|---|
8,415(件) | 21,310(件) | 59,440(件) |
施行件数は右肩上がりで、2021年の最新データでは、6万件に迫る勢いで増加しています。 上昇している要因としては、変わらぬお姿で葬儀を行いたいという気持ちが大きくかかわっていると思います。 そして、この数値の上昇は、エンバーミングが、日本でも徐々に浸透している証拠だと考えます。 現在のエンバーミング施設の件数に関しては、24都道府県61施設ということで、非常に多くなっています。 ※弊社が調査した2023/7/7時点のIFSA公開データです。
そもそもエンバーミングが日本に伝わった経緯
元々は海外が主流だった
海外(特にアメリカ)では、エンバーミング率が90%以上という事で、エンバーミング処置が強く根付いています。 かつて、土葬が主流の国では、主に感染症の予防のためにエンバーミングが行われてきました。しかし、最近ではアメリカなどでも火葬の割合が増えており、エンバーミングは感染症対策だけでなく、公衆衛生を考慮して安全に葬儀を執り行うために行われるとも考えられています。歴史背景としては、17世紀~19世紀にかけて、イタリア・フランスの科学者がホルマリンの発見が大きな第一歩でした。 アメリカの南北戦争(1861~1865)時に、エンバーミング処置は重宝されました。理由としては、戦死者たちを故郷に長距離輸送するためでした。つまり、1日2日では故郷に着かなかったのが原因として考えられます。その後、ベトナム戦争でも用いられ、技術も進歩したそうです。現代でも、長距離輸送(空輸等)では、エンバーミング処置を施すことが主流となっています。
日本で本格的にエンバーミングを知られるようになったのはいつか?
日本では、1974年に初めて川崎医科大学で導入されました。当時はまだ医療機関内でもあまり扱われていませんでしたが、、IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の設立もあり、徐々に件数は伸びていきました。 エンバーミング処置が日本国民に大きく知れ渡るのは、1995年の阪神淡路大震災です。災害で多くの人が亡くなり、火葬場が混みあい、火葬が追い付かなくなってしまったからです。 火葬が出来なければご遺体の腐敗が進んできてしまうため、腐敗を防ぐためにエンバーミングが浸透してきました。
日本でのエンバーミング処置はどのぐらいなされているか?
実際、日本では、エンバーミングは一般的に行われることは少ないです。その理由は、日本が火葬文化の国であり、ご遺体を長期保存する必要性がほとんどないためです。しかし、火葬場が混んでいて、お日延べといって火葬までの日数が伸びてしまった場合や、海外や国内から空輸をするといった場合、ご遺体を長期保存する必要がある場合には、エンバーミングを行うことでより適切な葬儀を実現できる場合もあります。ただし、一般的な状況では感染症防止の観点からはほとんど必要性がありません。
エンバーミングの手順とは
ここまで、エンバーミングの概要や、歴史、日本に流れてきた経緯というものをご紹介してきました。 ここからは、実際にどういう処置をするのか?ご遺族の皆様がどういう心持ちで、どういう手続きが必要なのかをご紹介していきます。
エンバーミングの流れ(手続き~完了まで)
①書類の提出
エンバーミングを行う場合、いくつかの書類の提出が必要です。エンバーミング施設には、「エンバーミング依頼書(同意書)」と「死亡診断書(死体検案書)」を提出する必要があります。さらに、故人の生前の写真を提出することも推奨されます。写真の提出により、エンバーマーは参考にしながら顔の修復を行い、遺族が持つイメージに近づけることが期待されます。これによって、より故人の実際の姿に近い状態でお別れができるのです。
②遺体の搬送
故人を安置している場所から、エンバーミングセンターやエンバーミングができる施設に遺体を搬送します。 ※以下、施設での処置です。
③遺体、お顔の洗浄・消毒
遺体全体を洗浄し、髪を洗った後、口ひげやあごひげを剃り、お顔を整えます。これは、いわゆる消毒の工程です。 目と口を閉じて、保湿剤を塗り、含み綿を用いて表情を整えます。
④体内洗浄・防腐保全処置
切開する場所は状態によって異なりますが、ご遺体の一部を1cm~1.5cmほど小さく切開(小切開)します。その部分から、動脈から防腐剤を送り込む一方で、静脈から血液を抜き取るという手順を経ます。また、腹部には小さな穴を開けて胸腔や腹腔内に残っている血液や物質を吸引し、そこにも防腐剤を注入します。防腐剤は毛細血管まで浸透し、皮膚の表面に赤みが現れます。これにより、ご遺体は生前の姿により近づくことができます。
⑤体内に残った物質の除去
消化器官(食道、胃、腸など)に残っている食物や、呼吸器官の痰などの物質を吸引し、さらに胸や腹腔内の体液も取り除きます。
⑥遺体の縫合・洗浄
切開した箇所や腹部に開けた穴などを縫合・修復します。もし顔や体に損壊がある場合は、損壊した部分を修復します。縫合や修復が完了したら、最後に全身を洗浄し、衣服を着せて表情や髪の毛を整えます。
⑦衣装の着付け
故人様のご遺族から指定があった衣装や宗旨に合った衣装を着せます。 衣装の着付けが完了した後には、顔の表情を整えるために改めて作業を行い、髪型も整えます。
⑧化粧
ご希望があれば、承ることも可能です。生前の印象に近くなるよう、ご希望をお聞かせください。
⑨搬送、ご帰宅
エンバーミングが行われた施設から、ご遺体の安置場所(自宅など)へ搬送されます。 以上が大まかな流れです。非常に多くの工程があります。一般的には3~4時間ですべての工程が終わるとされていますが、実際にエンバーミングをする際には半日以上は余裕を見ておいた方が、安心かもしれません。
エンバーミングが果たす役割
①修復・化粧~生前のお姿に近づける~
エンバーミングでは、ご遺体の修復が行われます。例えば、長期の闘病生活を送っていた方の場合、点滴や薬剤の影響で顔がむくんでいたり、痩せて頬がこけてしまうことがあります。しかし、エンバーミングによって、むくみを取り除き、お顔をふっくらと整えることが可能です。また、事故などでお顔に傷ができてしまった場合も、特殊な技術を用いて修復することができます。さらに、注入する防腐剤に色素を混ぜて顔色を調整したり、きれいなお化粧を施したりすることもできます。このような修復を施したお顔でのお別れは、元気だった頃の姿に近いものであり、弔問者の悲しみを軽減する効果もあるため、エンバーミングを希望する方が増えています。
②感染予防~安全にお別れできるようにする~
エンバーミングにより、ご遺体の消毒・殺菌が行われるため、清潔な状態を維持することが可能です。これにより、ご遺体に接する遺族や医師、看護師などの感染症予防にも役立ちます。例えば、結核やコロナウイルスのような空気感染症やインフルエンザのような飛沫感染症、さらにはB型肝炎やC型肝炎、MRSAなどの接触感染症の予防にも効果があります。衛生的に安全になったご遺体と思う存分ゆっくりとお別れできます。遺族は、葬儀の準備に追われてゆっくりとお別れが出来ないケースが多いです。そのため、エンバーミングをすることにより、ゆっくりとお別れをすることに意識を向けることができます。
③腐敗防止~変わらぬお姿のまま~
人間の体は死後すぐに腐敗が始まります。エンバーミングは、化学薬品を体内に注入することで腐敗を防ぐ方法です。 火葬場の混雑状況や他の事情により、すぐに火葬ができない場合もあります。そのため、エンバーミングへの需要は増加しています。 また、火葬場が混んでいることもありますが、友引などでお日延べをしたり、遠方に住まわれているご親戚が会いに来るために、火葬までの日数を伸ばすことが必要な場合にも有効です。
エンバーミングのメリット・デメリット
メリット
①生前と変わらない元気な姿でお別れが出来る エンバーミングでは、遺体の修復も行われます。その結果、表情や顔色が改善され、傷も修復されます。このような処置によって、故人はまるで眠っているかのように元気な頃の姿を取り戻すことができます。 この変化によって、見送る遺族や友人の心が癒され、故人とのお別れが安らかな思い出として残ることができるでしょう。 ②遺体を冷やさずに安置できる エンバーミングは、消毒や殺菌を行い、薬剤を使用して遺体の腐敗を防止することで、長期間の保存が可能になります。通常、火葬までに時間がかかる場合、ドライアイスを使って遺体の腐敗を防ぐことが一般的です。ドライアイスの量は季節によって異なり、冬場では約20キロ、夏場では約40キロ程度と言われています。火葬までに日数が空く場合、1日あたり約1万円前後のドライアイス代が追加でかかることになります。エンバーミングを行わない場合、一般的にはドライアイスや保冷室を使用して遺体を冷却して保存します。しかし、ドライアイスは遺体の腐敗を遅らせるだけであり、長期間の冷却によって皮膚が黒ずんでしまうことがあります。 また、保冷室に入れる場合、故人に付き添うことはできません。さらに、どちらの方法でも冷却を維持するためには、毎日費用がかかってしまいます。しかし、エンバーミングを行えば、遺体を冷却する必要なく保存することができます。 ③故人とゆっくりお別れができる ご遺体を長期間保存できることで、大切な方とゆっくりお別れする時間をとることができます。ご遺族は、葬儀の準備などに追われて、なかなか故人とゆっくりお別れをすることが叶いません。エンバーミングを行うことで葬儀の日程を急ぐことなく、故人と過ごす時間を作って、心の残りのないようお別れするためにエンバーミングを選択する方も多くいらっしゃいます。
デメリット
①遺体にメスを入れる必要がある エンバーミングでは、防腐剤を血管に注入するために皮膚にメスを使用します。傷は最小限に抑えられるようにしていますが、遺族の中には遺体にメスを使用することに抵抗を感じる方もいらっしゃるため、よく話し合ったうえで、納得した決断をすることが重要です。 ②処置費用が高額になりやすい エンバーミング処置は、一般的には15万円~25万円と言われており、費用が高額であることが挙げられます。 しかし、お日延べや季節等の関係で、トータルで見た時にドライアイスを多く消費して、エンバーミングよりも上回ってしまう事は少なくありません。 一概には言えず、ケースバイケースという事で、葬儀屋さんと相談をすることが大事です。
エンバーミングを検討する際の注意ポイント
①家族や親族と相談をする 先程も、デメリットの部分で触れましたが、できるだけ傷は最小限に抑えられるとしても、体にメスを入れることに変わりありません。 あとあと、家族間でトラブルや揉め事が起きないように、話し合いをして家族全員が合意をしたうえで、決めることが重要です。 ②専門業者へ依頼をする エンバーミングは、専門的な知識と高度な技術を持ったエンバーマーによって行われます。しかし、日本ではエンバーマーの資格に関する法律が整備されていません。そのため、遺体を安全にエンバーミングしてもらうためには信頼できる業者に依頼することが重要です。依頼する際には、エンバーミングに関する知識が豊富で、エンバーミング施設と提携している葬儀社に頼むと安心です。 信頼できる材料としては、IFSAの会員であるかどうかが大きなポイントであることです。まだ「免許」ではなく「資格」であるため現状、誰がやっても犯罪にはならないという問題があります。 そのため、葬儀社のエンバーミング実績とIFSAの会員で判断をするのがオススメです。 「おくりびとのお葬式」にはそのようなエンバーミングの資格保有者もおり、多数の処置をしてきた実績もありますので、ぜひお問い合わせください。
「湯灌」、「エンゼルケア」の違いとは?
今まで、エンバーミングについて記述を続けてきましたが、よく同じだと思われることがある湯灌とエンゼルケアについてご説明します。 ①「エンゼルケア」とは エンゼルケアは一般的には「死後処置」または「死後ケア」と呼ばれています。これは、病院や施設、ご自宅で亡くなった方に対して、医療従事者やそれに準じる方々によって行われます。エンゼルケアとエンバーミングには共通点があります。例えば、口や目のケア、身の回りの整理や衣服の着替え、化粧などが含まれます。ただし、エンバーミングには「保全処置」という要素が加わり、防腐処理、殺菌(感染防御)、修復が可能になります。 ②「湯灌」とは 湯灌(ゆかん)は、亡くなった方に対してぬるま湯で体を清め、着替えやお化粧を行う儀式です。湯灌師や納棺師、または葬儀従事者が担当します。一般的に、エンゼルケアや湯灌(ゆかん)では、着替えやお化粧といった要素がエンバーミングと共通していますが、湯灌(ゆかん)では「保全処置」を行って体の腐敗を防ぐことはできません。 ※主な違いとしては、二つの処置は、ケアではあるものの、腐敗や感染症から守るといった事後的な対策はできません。 その場では、きれいになりますが、ドライアイスを使わなければならないので、皮膚が黒ずんだりするリスクは大いにあります。
改めて、エンバーミングが必要となるケースとは?
①海外輸送、国内空輸でなければ搬送が難しいケース
国や航空会社では、国際的な遺体搬送にはエンバーミングによる防腐処置が必要と定められています。理由としては、本来、遺体を冷やすのに必要な量のドライアイスが航空機では使用できないからです。 これは、外国人が日本で亡くなった場合や海外から日本へ航空機で遺体を搬送する場合に適用されます。「おくりびとのお葬式」では、海外でお亡くなりになられた方も積極的にお手伝いさせていただきますので、お困りの方はすぐにお問い合わせください。
②火葬までに日数を要する場合
「親族が海外にいる」といった理由や「葬儀を行いたい日が友引であった」という事情により、火葬までの時間が延びる場合があります。このようなケースでは、ドライアイスや冷蔵庫を使用しても、遺体の腐敗は徐々に進んでしまいます。そこで、エンバーミングを行なうことで腐敗の進行を抑え、ご遺体を生前の状態に近い姿で保つことができます。
③生前のお姿でお見送りをしたい場合
例えば、解剖や交通事故などにより故人様に傷や損傷がある場合や、療養生活による体型の変化や点滴や薬によるむくみなど、故人様の容姿が生前と大きく変わってしまうケースは珍しくありません。 エンバーミングによって、「生前の元気な時の姿にできるだけ近づけたい」「美しい顔で皆にお別れしてもらいたい」というご遺族のご要望を実現することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか? エンバーミングの歴史や手順等を詳しく解説させていただきました。これを読んでいる方には、エンバーミングを知り尽くしたうえで、依頼をしてほしいという願いがあります。 「おくりびとのお葬式」でもエンバーミング処置を承ることは可能です。多数の処置をしてきた腕の良いエンバーマーがいますので、ぜひお電話ください。まずは、ご質問だけでもかまいません。 エンバーミングは新しい技術であることから、不明点が多く、誤った選択をされる方も多いです。後悔のない選択をしていただくためにもお問い合わせいただき、少しでもお役に立てれば幸いです。