葬式において参列者が持参する「香典(こうでん)」。現在では現金を包む形式が一般的となっていますが、昔は近所一同で葬儀を手伝っていた関係から、葬儀に必要な炊き出しの材料やお供え物などを持ち寄って、そうしたものを香典と呼んでいました。 香典はこのように時代と共に形式が変化しており、現在では水引を結った熨斗を巻いた香典袋に現金を入れたものを、「袱紗(ふくさ)」と呼ばれる布で包むのがマナーとなっています。 袱紗は結婚式など冠婚葬祭全般で使う四角い布で、色々な形式のものがありますが、現在では市販品として気軽に買える略式のものでも問題ありません。しかし、こうした香典や袱紗について、どこで買えるのかや渡すときのマナーなど、葬儀に慣れていないと色々不安なことも多いでしょう。 そこで今回は、香典と袱紗の文化的背景や必要性、袱紗に関するマナー、袱紗が買える場所といった意外と知らない事柄を中心に解説していきます。この記事で香典や袱紗についてその背景やマナーを把握し、自然に香典を受け渡しできるようになりましょう。
香典と袱紗とは
まずは葬儀に参列する際に欠かせない「香典」と、香典を包む「袱紗」について、基本的なことをまずおさらいしてみましょう。
香典とは
現在でいう「香典」とは、供花や線香・抹香など祭壇に捧げるお供え物の代わりとして御霊前にお供えする金銭を意味します。 この香典、今では多くの人が、故人様の死に際するお悔やみの気持ちや「ご遺族の負担の大きい葬儀費用の足しになれば」という気持ちなどを込めて現金を包んで渡すものだ、と考えているのではないでしょうか。 今の時代ではその認識で合っています。しかし、かつて葬式は自宅であげるもので、今とはずいぶんと事情が違っていました。近所づきあいも密接で、葬儀を行う家にご近所さんが集まって相互協力のもとでお供え物を持ち寄って炊き出しを行い、通夜の際には灯りを絶やすことなく寝ずの番でご遺体を守るのが一般的だったのです。 そうした背景から、かつて香典というのは線香やお花といった祭壇への供え物や、炊き出しの材料となる野菜や米などを皆で持ち寄って葬儀の出た家にお供えするというものでした。 しかし時代が現代へと移り行く中で、ご近所付き合いも希薄になり、葬儀の形式は各家庭のご遺族が取り仕切って、公共の葬儀場や斎場、セレモニーホールを貸し切って行うのが一般的となりました。 供え物もご遺族が葬儀会社に依頼して用意するのが当たり前になり、次第に高額になっていく葬儀費用の足しにと、参列者が現金を持ち寄り霊前にお供えするものへと変化していったのです。
袱紗とは
袱紗(ふくさ)とは、相手に贈る金品を包むために用いられる布のことです。 葬式だけでなく結婚式など冠婚葬祭全般に用いられるもので、基本的には香典やご祝儀など大切な金品が汚れたり、しわがよったりしないように防護する役割を担っています。 袱紗は元来、贈答品や貴重品を入れた箱の上に掛けられていた風呂敷がルーツとなっています。最初は魔除けや塵除けなどを目的とした風呂敷、つまり1枚布であったものが、いつしか房のついた四角い布となり、目的に応じて小型化が進み今の形になりました。 現在では、冠婚葬祭全般において、香典袋やご祝儀を包むのに使われることがほとんどです。
袱紗の種類は主に4種類
袱紗は、その構造の違いによって主に4つの種類に分けられます。なお、材質の種類などはあまり関係なく、袱紗自体の仕組みの違いによって区別されます。 主な袱紗の種類別の特徴をそれぞれ簡単に紹介すると、以下の通りです。 ♦台付き袱紗…袱紗の中に包む香典袋を置く台がついたもの。台があることで、不慣れな人が扱っても袋を置く位置がずれないようになっている ♦爪付き袱紗…台付き袱紗の中でも型崩れしないよう爪や留め糸がついたもので、よりしっかりと包める ♦風呂敷袱紗…文字通り風呂敷状の袱紗で、最も元来のルーツに近く、一枚布なので使用後は小さく折りたためる ♦金封袱紗…内側にポケットがつき、袋を財布のように封入できるようになっている袱紗。現在では最も簡略化された合理的な構造をしており、非常にポピュラーなものとなっています。
袱紗は必要?
袱紗は、時代と共に原義が薄れています。 そのため昨今の葬儀では、香典袋を裸で持ち歩き、受付にそのまま差し出す方も多く見受けられますが、本来は香典袋を袱紗で包むのが丁寧な形です。 袱紗は現在では単なる形式的な習慣とみなされる傾向がありますが、ご祝儀袋や不祝儀袋が濡れたりしわになったり汚れたりするのを防ぐためというのが本来の目的でもあります。礼儀というよりは、「なるべく汚れないように香典袋を渡す」という気持ちに従うと、袱紗を使うことで安心できるでしょう。 また、袱紗に入れて香典を持参することで、ご遺族への思いやりや故人様の死を悼む気持ちを示すこともできます。香典を渡す際、さすがに現金そのものを裸で渡すと礼儀知らずに思われますよね。幾重にも包むことで、丁重に礼儀正しく持参していることを自然と見せることができるのです。そうした意味でも、袱紗は必要といえます。 もしもやむを得ない事情で準備ができな場合には地味で且つ濃いめの色味のハンカチに包むなどして代用するようにしましょう。
袱紗に関するマナー
それでは、実際にご遺族に香典を渡す際の、袱紗にまつわるマナーを簡単に解説しましょう。 香典は、熨斗付きの香典袋に包んだのち、袱紗に入れて持参します。香典を包む袱紗の種類に決まりはなく、市販されている略式の「金封袱紗」でも構いません。 一般的には葬儀の受付を済ませた後、袱紗から香典袋を取り出して、受付に渡します。香典袋を袱紗から取り出したら、香典袋の表書きが相手から読める方向に向きを変え、必ず両手で渡すようにしましょう。 なお、香典袋を渡す際に袱紗はどうすればいいのかというと、風呂敷袱紗の場合は袱紗を受付台に置いてもかまいません。台が付いている場合は台の上に乗せたまま渡し、略式の金封袱紗の場合は香典袋の下に敷くようにしましょう。
袱紗はどこで買える?
あまり葬儀に参列したことがない場合、袱紗はどこに売っているのかわからないという方もいらっしゃるでしょう。 袱紗は、基本的には仏具店や文房具店で買えますし、フォーマルの一環として紳士服店などにも置いてあります。また、大型雑貨店やデパート等の文房具コーナーや紳士服売り場といった場所にも置かれていることが多いです。なお、最も簡略化された「金封袱紗」であれば、100円ショップでも売っています。 袱紗は色々な種類や柄・模様のものがあり、香典を包む用の袱紗の場合では華美な印象を与えない寒色系の色を選ぶといいでしょう。なお、紫であれば、結婚式などの慶事にも併用できますのでお勧めです。柄や刺繍は、蓮・菊・蘭のものが葬儀にふさわしいといえるでしょう。
まとめ
以上、香典と袱紗のルーツや定義、使い方やマナー、どこで買えるのかも含めて網羅的に解説しました。 近年では、袱紗の意味合いも薄れてきている傾向にありますから、袱紗を持参しなければマナー違反として非難の的に、ということにはなりません。 しかし、より丁重さや誠実な気持ちが求められる葬儀への参列の際には、袱紗は「なくてはならないわけではないが、あったほうがいい」ものとなります。「金品が汚れないように包む」という本来の袱紗の役割を考えれば、マナーを重んじる場合でなくても、香典は袱紗に包んで持参するのが無難といえるでしょう。