私たち人間は、いつかは死にます。そして、人が亡くなると、故人様を供養し、あの世へと送るための儀式をします。 それが「葬儀」であり、世界中で長年にわたって、当たり前に行われてきました。しかし、よく考えてみると葬儀というものは不思議です。 もし、あの世というものがなく、人は死ねば無になるだけなのだとしたら、故人様は自らの葬儀を体験することはできないということになります。 人は死んだらどうなるのかというのは死んでみなければわからない以上真偽は不明ですが、「故人様を見送る」という目的をもって行われる葬儀の存在意義については、誰しもが一度は疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。 そこで今回は、改めて原点に立ち返って、「そもそも葬儀とは何なのか」を主題とし、通夜と告別式の違いや葬儀を行う意味、なぜ葬儀には作法があるのかなど、様々な疑問について導き出せる回答をつまびらかにしていきましょう。
葬儀とは
葬儀とは、今では「葬式」と同義で扱われているように、世間的には「故人様を見送る儀式全般」を指す言葉として定着しています。 しかし、原義をたどれば意味合いは少し違うのです。なお、宗教や地域によって葬儀のルーツは細かく異なるので、ここでは日本で最も一般的な葬儀である仏教式の葬儀を取り上げます。 葬儀はもともと、家族や親族といった近親者のみで故人様を囲み、僧侶にお経をあげてもらう儀式のことを指していました。仏教では故人様の臨終から四十九日法要までの全工程を「葬送儀礼」といい、葬儀はそのうちの1つの儀式のことでした。 しかし、今では「葬儀は葬送儀礼の略」という考えもあるように、「葬式」と同様、故人様を見送る一連の儀式儀礼全般を指す言葉に変容しています。
通夜と告別式の違い
多くの方が、通夜と告別式は全く違うものと認識していることでしょう。 しかし、改めてそれらの違いを見ていくことで、それぞれのルーツを明らかにしていきましょう。
通夜とは
通夜は、今では告別式前日の夜に行われる儀式(通夜式)を指しています。 一般参列者を招き、僧侶を呼んで納棺した状態の故人様へ読経・焼香をささげ、その後「通夜振る舞い」と呼ばれる会食を行って、故人様を供養する流れです。 昔の日本では、通夜にはもっと重要な意味合いがありました。通夜はもともと、死者の復活を願って行われていた儀式がルーツになっていて、自宅に棺に入れた故人様のご遺体を安置し、故人様のそばで思い出話に花を咲かせるという目的がありました。 その際、一晩中灯りを絶やさずに寝ずの番をして遺体の傍にいて、遺体を守る目的もあったのです。今は一晩中寝ずの番をするという習慣はなく、実は「半通夜」といって簡略化された形式となっています。
告別式とは
告別式は、火葬と同日に行われる、広く一般に開かれた故人様とのお別れの儀式で、故人様と親交のあった多くの人々が参列する、葬儀のメインとなる儀式です。 現代の仏教式の葬儀では、前述した近親者のみが参列する「葬儀式」と一体の流れで行われるのが一般的です。今でも、告別式の正式名称は「葬儀・告別式」となっています。 一連の流れの中で行われるため、今では近親者向けの葬儀式も含めて「告別式」と認識している方がほとんどでしょう。
葬儀をする意味
葬儀をする意味は、大きく分けると2つあります。 まずは何よりも「故人様の死を悼み、死後安らかに眠れるように願う」こと。そしてもう1つは「ご遺族をはじめ遺された人たちが故人様の死を受け入れ、気持ちを整理し故人様との別れを実感する」ことです。 前者は、宗教的な思想が大きく関係してくる考え方であり、宗教や宗派によって葬儀の目的は変わってきます。たとえば、キリスト教では死は悲しいことではなく、神の御許で永遠の幸福を得られる場所に行くことと考えられています。 しかしどんな形にせよ「死を悼み、死後の安寧を願う」のが葬儀の大きな存在意義であることは共通していて、宗教宗派による違いはありません。 後者については、葬儀の中で、葬儀の意味合いを見出すのに最適な儀式があります。それが通夜です。 通夜は、古代日本において行われていた「殯(もがり)」という儀式にルーツがあります。殯とは、古代日本の葬送儀礼で、簡単に説明すると「遺体を納棺した後、腐敗し白骨化するまで安置する」というものです。 今の日本では考えられない習慣ですが、殯には死者の復活への願いが込められていました。それと同時に、故人様の遺体の腐敗や白骨化という物理的な変化によって、故人様の死を実感するという意味合いもあったと考えられています。 つまり、昔から今に至るまで、葬儀は旅立つ死者のためではなく、遺された生者の気持ちの整理をつけるために行うものでもあるのです。
葬儀に作法がある意味
葬儀に作法がある理由をご存知でしょうか。 それは、故人様の死を悼む厳かな場であるという雰囲気的な理由も大きいですが、葬儀というものがもともと宗教的な意味合いが強いものであり、1つ1つの動作が儀式の一環であるからです。 たとえば、通夜や告別式であげる焼香ひとつとっても、額に手を近づける動作、焼香の回数など1つ1つの動作に細かい宗教的な意味合いや、宗派による違いがあります。 たとえば、焼香の回数だけでも細かい違いがあり、真言宗や日蓮宗では3回、臨済宗や浄土真宗本願寺派では1回です。この回数の違いにも細かい意味の違いがあります。たとえば1回なのは「死は一に帰ること」という考えがもとになっていますし、3回なのは仏教で「3」が大事な数字であるという考えがもとになっています。
まとめ
以上、葬儀のルーツや現在の定義、習慣の変化などの解説を通して、「葬儀の意味」をつまびらかにしていきました。 葬儀は基本的には遺された者たちの願いや祈りがルーツとなっていて、だからこそ今でも続く重要な人生儀礼の1つとなっているのです。