葬送儀礼の流れのうちのひとつである「納棺の儀」は、非常に重要な儀式です。 ここではこの「納棺の儀」を取り上げて、 ♦納棺の儀とはそもそも何か ♦納棺の儀はどこで行うのか ♦納棺の儀の流れ ♦湯灌とは ♦湯灌と死化粧とは について解説していきます。
納棺の儀とは
「納棺の儀」は「納棺の儀式」とも呼ばれます。なおここでは、「納棺の儀」の表記に統一します。 納棺の儀とは、文字通り、故人様を棺に納める儀式をいいます。 ただこれを説明するためには、「そもそも故人様は、亡くなった後どのような状態にあるか」を知らなければなりません。
1.病院で息を引き取る
現在はほとんどの人が病院で息を引き取ります。 亡くなったことが確認されると、医師が「死亡したこと」を証明する書類を発行します。
2.葬儀会社に連絡~安置場所へ
病院の霊安室は、それほど長く使えるものではありません。 数時間程度で退去しなければならないため、速やかに葬儀会社に連絡をします。 葬儀会社は、連絡を受けたらすぐに車を出し、その車にご遺体を乗せて安置場所にお連れします。 ※葬儀会社は365日24時間対応です。 ※「ご遺体を自家用車で運んではならない」という法律はありませんが、ご遺体に傷がついたり、感染症の恐れがあったりするため、自家用車でお連れすることは基本的にはやめておくべきです。
3.ご遺体を安置する
安置場所についたら、ご遺体を安置します。 この時点では、ご遺体は棺には入っていません。布団(故人様が使っていた布団を使うこともあれば、葬儀会社などで用意することもある)に寝かせるかたちを取ります。なおこの安置の仕方は、宗教ごとに違いがあります。ただ今回は宗教ごとの違いをメインにする記事ではありませんから、これは割愛します。
4.一夜を過ごす
2日間に渡って行う葬儀の場合、基本的には故人様の体を布団に寝かせたまま一夜(通夜の日程によってはそれ以上)を過ごします。 この段階でも、まだ棺には入れません。
5.通夜の前に棺を使う
このようにして時間を過ごしますが、通夜が行われる日になったら棺が用意されます。 この段階で、布団でお休みになっていた故人様が、棺の中に移ることになります。そしてこの、「棺に移る儀式」を、「納棺の儀」といいます。 葬儀は、多くの人にとって非日常的なものです。そのため、「安置の段階で棺に入っている」と考えている人もいるでしょう。ただ実際には、多くの場合、「通夜の前の段階」で初めて納棺の儀の儀式が行われて棺に入れられます。 もっともこれも、あくまで「多くの場合」であり、絶対的なものではありません。たとえば夏の非常に暑い時期に、暑い地方で息を引き取られた場合、安置後すぐに棺に入れることもあります。現在はドライアイスなどで故人様の体を腐敗から守るようにしていますが、このドライアイスの効力は棺という「入れ物」に入っていた方がずっと強くなるからです。 実際に同じ地方であっても、「夏に亡くなった母はすぐに棺に入れられ、冬に亡くなった父は布団で安置して翌日に棺に入れられた」という話もあります。 このあたりは絶対的なものではないことも、合わせて押さえておくとよいでしょう(下記では、特筆しない限りは「布団に安置していて、通夜の少し前に納棺の儀を行う」という前提でお話をしていきます)。
納棺の儀はどこで行う?
納棺の儀は、その特性上、「安置場所」で行われます。 故人様が寝ている布団のすぐ横に棺を置き、故人様を移動させて棺に入れます。 なお「安置場所」はご家族が任意で設定できます。よく選ばれる場所としては「自宅」「葬祭ホールの親族控え室」です。これはご家族のご意向によるところが大きいため一概に言い切ることはできませんが、都心部の場合は葬祭ホールを選ぶ傾向が多く、地方では自宅を選ぶ傾向が多いといえます。 地方では土地代の安さから故人様を安置できる十分なスペースを自宅に確保できるケースが多いのですが、都心部の場合はそれが難しいうえにマンションなどの集合住宅にお住まいの方が多いからだと考えられています。 なお、「自宅で安置したい」とご家族が希望を出しても、 ♦家の前の道路が非常に狭い ♦マンションやアパートの2階以上で、かつエレベーターがない ♦マンションやアパートの高層階でエレベーターもあるが、エレベーターに棺を載せられる広さがない などの場合は、自宅への安置ができない可能性もあります。
納棺の儀の流れ
納棺の儀の流れについても見ていきましょう。 なおこの手順は、宗教ごとで多少異なります。
1.末期の水を含ませる
「末期の水」として、故人様の唇に水を含ませます。 なおもともと「末期の水」は「臨終」の際に行うものとされていましたが、今は納棺の儀のときに行われることが多くなりました。 水を含ませた脱脂綿を取り付けた割りばしを唇に軽く置くやり方が一般的です。なお故人様がお酒好きだった場合は、お酒を含ませることもあります。
2.湯灌や死化粧を行う
湯灌や死化粧(後述します)を行います。 ただこの方法は、末期の水を含ませる段階よりも前に行うこともあります。
3.死装束を着せる
死装束を着せます。 かつては宗教に合わせた旅装束などを着せるやり方が一般的でしたが、現在は故人様が好きだった服などを着せることもよくあります。
4.棺に副葬品を入れる
棺の中に副葬品を入れます。 この副葬品は、故人様を火葬するときに一緒に燃やすことになるものです。 そのためライターなどの爆発の恐れがあるものや燃えない材質のものは入れることができません。 また、火葬場によっても細かな規定は異なるため「入れてもいいかどうか迷うものがある」という場合は、葬儀会社のスタッフに尋ねてください。
湯灌・死化粧とは
上で挙げた「湯灌(ゆかん)」と「死化粧」について詳しく見ていきましょう。 湯灌とは、ご遺体をお湯で清めることをいいます。衛生上・宗教上の理由があって昔から行われてきたものです。 ただ、この湯灌を本格的に行おうとすると、専門の設備が必要になります。また専門のスタッフの力を借りなければなりません。 そのため現在は「清拭」というかたちで、アルコールやお湯でご遺体を清めるだけにしておくというやり方もよく取られます。なおこの清拭までは、多くの場合、病院で行ってもらえます。 「死化粧」という言葉は、非常に多くの意味を持つ言葉です。たとえばごく簡単に髪の毛を整えたり身なりを整えたりすることも「死化粧」ということもありますし、生前に使っていた化粧品で軽く薄化粧をすることも「死化粧」ということもあります。 その一方で、ご遺体専用の化粧品を使って、専門の技術を持つ納棺師が行う化粧もまた「死化粧」と呼ばれています。 納棺師が行う死化粧は非常に美しく、病などで苦しんでいた人であってもその苦痛が感じられないお顔になるため、安らかなお顔でのお別れを希望する人に向いています。
まとめ
「納棺の儀」は、非常に重要な意味を持つ儀式です。 葬儀のときに必ず必要になる儀式であるため、どのようなものかを把握しておくとよいでしょう。 なお納棺の儀自体の費用は葬儀費用のなかに含まれています。ただ、専門スタッフによる湯灌や死化粧を希望した場合は、オプション料金がかかるので注意しましょう。両方とも相場はだいたい5万円~程度です。