お葬式のときには、宗教者を呼んで弔いの儀式をしてもらうご家庭が多いといえます。 ここではそのような宗教者のなかで、特に「菩提寺」に注目をして、 ♦そもそも菩提寺とは何か ♦菩提寺がある場合とない場合(分からない場合)の対応方法 ♦お葬式が終わった後の対応方法 について解説していきます。 ※なお本稿は「仏教」の葬儀のみを取り上げます。
菩提寺とは
「菩提寺」とは、「先祖代々お世話になっているお寺」を指します。 たとえばそのお寺の墓地にお墓があったり、葬儀や法事をお願いするときに特定のお寺を頼ったりしている……ということであれば、それが「菩提寺」となります。 なお江戸時代には、「寺請制度」が敷かれたため、人はだれでも菩提寺を持たなければならないという決まりがありました。ただ現在はこの寺請制度はもうなくなっていますし、菩提寺への帰属意識が極めて薄い人も多くなっています。
菩提寺がある場合の葬儀
お葬式で、かつ菩提寺が分かっているのであれば、まずは菩提寺に連絡をするのが基本です。 お葬式はご家族・ご親族、菩提寺の都合、火葬場のスケジュールを確認して決めるのが一般的であるため、基本的には菩提寺のスケジュールも考慮する必要があります。 ただ、「どうしてもこの日にお葬式をしなければならないのに、菩提寺のスケジュールが空いていない」という場合は、菩提寺を介してほかのお寺を紹介してもらうやり方をとっても構いません。お寺は基本的には檀家がほかのお寺を利用することを嫌いますが、「スケジュールの都合上やむを得ないので、菩提寺の許可をとってほかのお寺を菩提寺から紹介してもらう」というやり方であれば問題はないでしょう。 なお、「菩提寺があるにも関わらず、ほかのお寺に連絡をする」というやり方をした場合、後々に話がこじれることがあります。特に先祖代々のお墓が寺の墓地にあり、今後もそこを使い続けていくことが前提となるのであれば、菩提寺との関係は良好なものにしておく必要が求められます。
菩提寺がない場合の葬儀
「菩提寺がない」「菩提寺が分からない」という場合の対応方法は、「ご家族が宗教をどう捉えているか」「今後どのようにしていきたいか」によって異なります。 下記でケース別に対応方法を紹介していきます。
【菩提寺は分からないが、お寺に依頼する意思はある】
この場合は、菩提寺を調べるところから始めます。まずはご親族に尋ねてみるとよいでしょう。 ご親族でも菩提寺が分からない……という場合は、お墓やご位牌の記載、あるいは仏壇の状態を見て、どこの宗派かあたりをつけます。仏教はいくつかの宗派に分かれており、それぞれでお祀りの仕方が異なるからです。「恐らくこの宗派であろう」ということが分かったなら、地元の該当宗派のお寺に一度相談してみるとよいでしょう。
【菩提寺は分からないが、今後菩提寺と付き合う予定はない。読経はしてもらいたい】
このようなケースでは、「僧侶派遣サービス」などを検討するとよいでしょう。 僧侶派遣サービスは御布施の料金も一律であることが多く、戒名の授与までしてくれます。 菩提寺との付き合い継続の意思がないのであれば、このような形式を選んでも問題にはなりにくいでしょう。
【菩提寺は分からないが、今後菩提寺と付き合う予定はない。読経も必要ない】
無宗教の葬儀を挙げることを検討しましょう。 宗教的な儀式を含まないで行う葬儀も、現在では決して珍しいものではなくなっています。音楽やお花でお見送りするかたちをとるのも、ひとつの葬送の形式です。
【菩提寺があるにはあるが、付き合いは祖父母の代で終わっている】
疎遠になっている菩提寺であっても、菩提寺があるようならば一度は声を掛けてみるのが基本です。 ただ、「あまりにも疎遠になっているうえに、自分はもう地元には帰らず、葬儀自体も遠方で行う」という場合は、一度その菩提寺に連絡をしたうえで同じ宗派のほかのお寺を紹介してもらうことも考えるとよいでしょう。
【本当にまったく菩提寺がないが、これからはお寺と付き合っていきたい】
「家族全員が宗教への帰属意識が極めて希薄であり、仏壇もなければ墓もない」「親族とも縁が遠く、菩提寺があるかどうかも分からないし、両親もお寺に頼った形跡がない」ということであれば、菩提寺がないものと考えて、新しくお寺を探すとよいでしょう。 地元のお寺などに一度相談してみてください。
【本当にまったく菩提寺がなく、これからも檀家になる気持ちがない】
基本的には無宗教の葬儀を選ぶとよいでしょう。 「お見送りのときに読経だけでも」ということであれば、葬儀・法要(法事)のときの付き合いと考えて、前述した僧侶派遣サービスなどを利用することを考えます。
【番外編:菩提寺はあったが、付き合いたくない】
「菩提寺はあるが、以前母親の葬儀のときの対応が大変ひどかった。今回父親が亡くなったが、絶対に呼びたくない」というケースもあり得ます。 この場合は、「菩提寺に墓があるかどうか」が問題になってきます。 お墓がない場合は、そのまま無視するかたちで問題はないでしょう。お寺の墓地でなければ、宗教や宗派を問わずに納骨できます。また納骨や葬儀のときに、宗教者を呼ばなければならないという法律はありません。 お寺にお墓がある場合は、もしもご家族の心に折り合いがつくのであれば声を掛けてみる方が良いかもしれません。そうでなければ、離檀料を請求されることになるからです。 もっとも、「それでも絶対に呼びたくない」ということであれば、「離檀料には法的な根拠が薄い」としてつっぱねて、「呼ばない」とする選択肢を取ることも可能です。
お葬式が終わった後は
お葬式が終わった後の振る舞いについても考えていきましょう。 菩提がある場合は、菩提寺に行ってご挨拶をするのがもっとも正式なマナーです。 またこの際に、四十九日法要などの予定が決まっているのであれば、相談をしておくとよいでしょう。 菩提寺がない(分からない)ということで、無宗教の葬儀にした/僧侶派遣便を選んだ などの場合は、特段挨拶の必要はないでしょう。ただ僧侶派遣便を利用していて、四十九日法要でも使いたいということであれば、そのことは早めに相談しておくとよいかもしれません。
まとめ
菩提寺の有無で、葬儀のときのお寺への対応方法は異なります。 自分がどのケースに当てはまるのかを確認しておくとよいでしょう。 最後になりましたが、仏教に限らず宗教は、すべて「人の心を支えるもの」「人の心を労わるもの」として存在します。宗教行事を行わなければ葬儀が行えないということはありませんし、また宗教行事を伴う葬儀がお金の無駄である、ということもありません。 大切なのは、残されたご家族と、旅立った故人様の気持ちだけです。ただもめやすい部分ではありますから、必要に応じてご親族とも話し合って決めていくとよいでしょう。